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福島地方裁判所郡山支部 昭和53年(ワ)215号 判決

原告

樽川七郎

ほか一名

被告

桑野吉男

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告樽川七郎に対し金八万三、四〇〇円及び内金七万三、四〇〇円に対する昭和五二年一二月一日から、原告有限会社森永牛乳安積販売所に対し金一〇二万九、〇三二円及び内金九二万九、〇三二円に対する右同日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告樽川七郎と被告との間においてはこれを五分し、その四を原告樽川七郎の、その余を被告らの負担とし、原告有限会社森永牛乳安積販売所と被告らとの間においてはこれを一〇分し、その一を原告森永牛乳安積販売所の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告樽川七郎に対し金三九万四、二七九円と内金三四万四、二七九円に対する昭和五二年一二月一日から、原告有限会社森永牛乳安積販売所に対し金一一五万円と内金一〇〇万円に対する右同日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに1につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告桑原)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(被告梅津)

1 原告らの被告梅津忠助に対する請求を棄却する。

2 原告らと被告梅津忠助との間で生じた訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決並びに予備的に担保を条件とする仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和五二年三月三日午前七時四五分ころ

(二) 発生場所 須賀川市大字滑川字十貫内五九五番地付近T字型交差点

(三) 加害車両 被告桑原運転の普通乗用自動車(福島五六す七八五九)と被告梅津運転の軽四輪乗用自動車(ハ福島は四五六)

(四) 被害車両 原告樽川運転の軽四輪貨物自動車(六六福島あ〇六九〇)

(五) 事故態様 直進路を直進する被告梅津車とT字路を右折しようとした被告桑原車が出合頭に衝突し、その勢いで被告梅津車が折から右折するべく直進路に停止していた原告樽川車に衝突したもの。

2  被告らの責任原因

被告桑原は、前記桑原車を所有し自己のために運行の用に供していたものであり、被告梅津は、前記梅津車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、被告両名は、いずれも自賠法三条による運行供用者責任がある。

3  原告らの損害

原告樽川は、前記事故により左頸筋挫傷、腰部挫傷、椎管内障の傷害を受け、浅木整形外科医院において、昭和五二年三月四日から同月一九日まで通院(内治療実日数一一日)、同月二〇日から同月三一日まで入院(一二日)、同年四月一日から同月三〇日まで入院(三〇日)、同年五月一日から同月五日まで入院(五日)、同月六日から同年七月二三日まで通院(内治療実日数六八日)、同月二四日から同年一一月二九日まで通院(内治療実日数二四日)してそれぞれ治療を受け、その結果原告らは次の損害を蒙つた。

(一) 原告樽川 合計金一四四万四、六三九円

(1) 治療費 金三〇万六、一三九円

(2) 入院雑費 金二万八、二〇〇円

入院四七日間、一日金六〇〇円の割合

(3) 通院交通費 金一万〇、三〇〇円

(4) 慰藉料 金九〇万円

右入通院期間からして慰藉料は金九〇万円をもつて相当とする。

(二) 原告会社 金一〇〇万円

原告会社は、牛乳販売を業とする資本金六〇万円の有限会社(代表者原告樽川)であるが、法人とは名ばかりの俗にいう個人会社であり、原告樽川が朝は各家に牛乳配達をし、日中は小売店に牛乳の卸売をし、その間集金をするという具合に営業の中核として稼働しており、原告樽川には原告会社の機関としての代替性がなかつたのであつて、原告樽川の本件受傷(昭和五二年三月四日から同年七月末までの五か月間は全く稼働できなかつた。)により原告会社は莫大な損害を蒙つた。(ちなみに、別紙売上明細のとおり本来前年に比較して上昇すべき売上が大幅に減少している。)

ところで、原告会社は原告樽川に対し、本件事故後も本件事故前三か月間の平均月額と同額の月額金二〇万円の役員給与(原告樽川の職務内容からすると実体は賃金の性質をもつ。)を支払つていたところ、原告会社の企業損害は本来営業利益の減少分等を具体的に算出すべきではあるが、右のように原告樽川の休業期間中に支給した給与分はこれを原告会社の独自の損害と認められるべきであり、しからずとするも、原告樽川が休業損害として直接被告らに請求すべきものを、被告らが支払わないので、やむなく原告会社が一時原告樽川の生活のため、肩代りして支払つたものであるから、事務管理を根拠に被告らに対しその支払を求めることができるというべきである。

そして、前記のとおり原告樽川の本件受傷による休業期間は、控え目にみても昭和五二年三月四日から同年七月末日までの約五か月間と考えられるから、原告会社が被告らに支払を求め得る金額は合計金一〇〇万円となる。

4  損害の填補

原告樽川は、被告桑原から前記治療費の内金四八万七、六八〇円を直接前記医院に支払つてもらつたほか、被告桑原車の自賠責保険から金三一万一、八二〇円、被告梅津車の自賠責保険から金一〇万〇、八八〇円の支払を受けた。

5  弁護士費用

原告両名は、被告らが任意の弁済をしないので、本訴の提起を弁護士たる原告ら訴訟代理人に委任し、その報酬を原告樽川金五万円、原告会社金一五万円と約さざるを得なかつたのであり、これは本件事故による損害とみるべきである。

6  よつて、原告樽川は被告らに対し、本件損害金として金三九万四、二七九円及び内金三四万四、二七九円に対する損害発生の後であることが明らかな昭和五二年一二月一日から、原告会社は被告らに対し、本件損害金として金一一五万円及び内金一〇〇万円に対する右同日からそれぞれ支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告桑原)

1 請求原因1、2の事実は認める。

2 請求原因3の事実中、原告樽川が浅木整形外科医院において昭和五二年三月四日から同月一九日まで通院(内治療実日数一一日)、同月二〇日から同月三一日まで入院(一二日)して治療を受けたこと、同期間中の治療費として金一一万八、一四〇円を要したこと、原告会社が牛乳販売を業とする資本金六〇万円の有限会社(代表者原告樽川)であり、法人とは名ばかりの俗にいう個人会社であつて、原告樽川が朝は各家に牛乳配達をし、日中は小売店に牛乳の卸売をし、その間集金をするという具合に営業の中核として稼働しており、原告樽川には原告会社の機関としての代替性がなかつたことは認めるが、その余は不知ないし争う。

原告樽川は、元来腰痛で本件事故前にも数回浅木整形外科医院に通院していたことがあり、原告樽川の入通院が長びいたのは持病の腰痛を治さんが為である。

なお、原告会社の損害については、被告梅津の主張を援用する。

3 請求原因5の主張は争う。

(被告梅津)

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2の事実中、被告梅津が前記梅津車を保有していたことは認め、その余は不知。

3 請求原因3の事実は不知。

原告樽川は、本件事故当日は治療を受けておらず、その翌日から三月一九日までの一六日間に一一日通院治療を受け、同月二〇日突然入院したのであり、入院中の治療状況(機械矯正術と内服薬の投与、注射だけ)及び受傷後相当期間経過してからの入院であることを合わせ考えると、入院の必要性については非常に疑問である。

原告会社の損害については、原告会社の決算書によると、本件事故のあつた第四期(昭和五二年三月一日から昭和五三年二月二八日まで)の売上高は伸びが少ないとはいえ、若干伸びており、売上利益も他の年度と比べほとんど変つていない。原告会社の営業形態はかなり定型的なものであつたから、原告が病床にあつたとしても、最少限の営業活動と営業の指示はなし得たのであり、原告樽川の受傷のため原告会社が多大の損害を受けたとは認められず、また原告会社が原告樽川に役員報酬を支払つたために特に損害がでたということもできない。

三  被告梅津の抗弁

本件事故は、広い直進路を被告梅津車が時速約三五キロメートルで数台の自動車の後方を進行中、進路左側に直角にのびているT字路の狭い道路から、被告桑原車が広い道路の交通状況の確認をしないで漫然右折しようとして広い道路に進入したため、被告梅津車の左側に衝突し、被告梅津車が右前方にとばされ、原告樽川車に衝突したというものであり、もつぱら被告桑原の過失によつて起こされたもので、被告梅津には自動車運転上の過失はなかつたのである。

仮に、被告梅津に過失があつたとしても、被告桑原の過失が極めて大きく、過失割合は被告梅津一、被告桑原九と認定すべきであるから、原告らの損害の賠償も右過失割合に従つて負担を命ずべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁の主張については争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実については、当事者間に争いがない。

二  請求原因2については、被告両名がそれぞれ保有者として自賠法三条による責任を負うことは、当事者間に争いがない。

三  本件交通事故についてみてみるに、前記一の争いのない事実に、成立に争いのない乙第一三ないし第一五号証、第一九、第二三、第三五、第三六号証によれば、本件事故現場は、南北に通ずる幅員約六・七メートル(道路脇の未舗装部分を含む。)の直進路とこれから西方に通ずる幅員約四メートルの道路とが交わる丁字路であり、右直進路を北進していた被告梅津車からみて左方交差道路に対する見通しはブロツク塀にはばまれて困難であつたこと、被告梅津車は時速約三五キロメートルで直進路を北進中、交差道路手前約一八・二五メートルの地点で交差点に設置されていたカーブミラーを通して交差道路に一時停止していた被告桑原車に気付いたが、減速することなくそのままの速度で進行したこと、一方被告桑原車は交差点で一時停止し二台の自動車をやり過したのち、その後方を進行してきた被告梅津車に気付かず、直進路を右折しようとして発進したところ、折から進行してきた被告梅津車の左側部に自車前部を衝突させ、そのはずみで被告梅津車を直進路に停止していた原告樽川車に衝突させたこと、以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、本件事故の原因は、被告桑原が右方道路の安全を確認しないまま右折を開始した過失によるところが大であるが、被告梅津も見通しのきかない交差道路に停止していた被告桑原車を認めながら、何ら減速徐行することなくそのまま進行した点に過失を免れない。もつとも、その過失割合は確かに被告桑原の方がはるかに多いことは否定できないと思われるが、被害者に対する関係においては、被告梅津もまた全損害につき賠償義務を負うべきは当然である。

(なお、両被告とも業務上過失傷害等の罪で略式命令の確定していることは送付嘱託にかかる刑事記録から明らかである。)

四  原告樽川の治療の経緯についてみるに、原告樽川本人尋問の結果(第一回)によつて真正に成立したものと認められる甲第三ないし第六号証の各一、二、成立に争いのない乙第二八号証、原告樽川本人尋問の結果によれば、原告樽川は(当時満三九歳)前記事故当日は牛乳配達の仕事をそのまま続け、翌四日痛みを感じ、浅木整形外科医院において診察を受け、左頸筋挫傷、腰部挫傷の傷病名で約三週間の加療が必要との診断を受けたこと、そして、同原告は、右医院に昭和五二年三月四日から同月一九日まで通院(内治療実日数一一日)し、同月二〇日から同年五月五日まで入院(四七日)し、さらに同月六日から同年七月二三日まで通院(内治療実日数六八日)して治療を受け、同年七月二三日をもつて治癒したとの判定を受けたこと、右期間中の治療費合計は金四八万七、六八〇円であり、被告桑原が直接右医院に支払つたこと、原告樽川は、椎管内障の傷病名で、右医院に同年七月二四日から同年一一月二九日まで通院(実治療日数二四日)し、その治療費の内金一万八、四七九円を個人負担(残金三万一、四五一円は国民健保から)して支払つたこと、以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、昭和五二年三月四日から同年七月二三日までの入通院は本件事故に起因する左頸筋挫傷、腰部挫傷の治療のためであり、本件事故との因果関係を肯定することができるが、同年七月二四日以降の椎管内障の傷病名による通院については、左頸筋挫傷、腰部挫傷が治癒と判定されたのち改めてつけられた傷病名(前記三月四日から七月二三日までの間にはかかる傷病名はでていない。)であつて、本件事故との因果関係には疑問があるのみならず、他にこの因果関係を肯定するに足りる証拠はない。

五  原告らの損害について判断する。

1  原告樽川

(一)  治療費 金四八万七、六八〇円

前記四で説示したとおり、原告樽川主張の治療費の内金一万八、四七九円については本件事故による損害と認めるに足りない。

(二)  入院雑費 金二万八、二〇〇円

一日金六〇〇円の割合で入院期間四七日として算定した。

(三)  通院交通費 金七、九〇〇円

一回の通院交通費が金一〇〇円を下らないことは弁論の全趣旨により明らかであり、これに通院実日数七九日を乗じて算定した。

(四)  慰藉料 金六五万円

前記四で説示した原告樽川の傷害の部位、程度、本件事故と因果関係の認められる入通院期間(特に通院期間九五日に対し実通院日数は七九日でその頻度は高い。)、本件事故の態様、加害者の態度、その他諸般の事情を斟酌すると、本件事故による原告樽川の精神的苦痛を慰藉するに足りる金額としては金六五万円をもつて相当と認める。

2  原告会社

原告会社が牛乳販売を業とする資本金六〇万円の有限会社(代表者原告樽川)であり、法人とは名ばかりの俗にいう個人会社であつて、原告樽川が朝は各家に牛乳配達をし、日中は小売店に牛乳の卸売をし、その間集金をするという具合に営業の中核として稼働しており、原告樽川には原告会社の機関としての代替性がなかつたことは、被告桑原との間では当事者間に争いがなく、被告梅津との関係では証人樽川令子の証言、原告樽川本人尋問の結果(第一、二回)及び弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる。

そして、証人樽川令子の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第七号証、証人樽川令子の証言、原告樽川本人尋問の結果によれば、原告樽川は本件事故当時原告会社から月額金二〇万円の役員報酬を受領していたところ、本件事故により稼働できなくなつたのちも、引き続き月額金二〇万円の役員報酬を受け取つていたこと、原告樽川の受領していた月額金二〇万円は、役員報酬といつても同原告の稼働状況からして実質は賃金の性質をもつものであつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、原告会社は、原告樽川の休業期間中に支払つた右給与分は原告会社の独自の損害となる旨主張するので、按ずるに、いわゆる企業損害については当該企業と直接の被害者とが経済的同一関係を有する場合(例えば、個人会社等)に限つて企業も収益の減少等の損害があれば、これを加害者に直接請求し得ると解する余地は存するものの、本件において原告会社の主張するのは、原告樽川の休業中に原告会社が支払つた給与分の支払を求めるものであるから、それは本来原告樽川が休業損害として加害者に対し請求し得るものを、原告会社が肩代りして支払つたことに帰着する。したがつて、肩代りして支払つた金額をもつて直ちに原告会社の独自の損害ということはできない筋合であり、しかも原告会社の肩代りは法律上の義務に基づくものではないから、かかる場合の原告会社の被告らに対する請求は、弁済者の任意代位(民法四九九条)あるいは事務管理(民法七〇二条)の法理によるべきが相当である。

本件事故による原告樽川の休業期間は、前記四の認定事実からして、昭和五二年三月四日から同年七月二三日までとするのが妥当であるから、その間の休業損害を月額金二〇万円(昭和五二年度賃金センセスとの対比、原告樽川の稼働の実態、原告会社の売上高等からみて控え目であり減額の要はないと思料する。)の割合で算定すると、三月分は金一八万〇、六四五円

(20万×28/31≒18万645。円未満切捨)、四月分から六月分までは合計金六〇万円、七月分は金一四万八、三八七円(20万×23/31≒14万8,387。円未満切捨)となり、合計金九二万九、〇三二円が休業損害の肩代り分として、原告会社が事務管理を理由に被告らに請求し得る金額というべきである。

六  以上のとおり、原告樽川の損害額は金一一七万三、七八〇円、原告会社の損害額は金九二万九、〇三二円となるところ、原告樽川は、治療費金四八万七、六八〇円の支払をしてもらつているほか、被告桑原車の自賠責保険から金五一万一、八二〇円、被告梅津車の自賠責保険から金一〇万〇、八八〇円の各支払を受けていることを自認しており、原告樽川の残損害額は金七万三、四〇〇円となる。

七  原告らが被告らからの任意の弁済を受けられないため、本訴の提起、遂行を原告ら訴訟代理人に委任したことは当裁判所に顕著であり、本件訴訟の難易度、前記請求認容額、本件訴訟の経緯等諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として、原告樽川が金一万円、原告会社が金一〇万円の各請求をなし得ると認めるのが相当である。

八  以上のとおりであるから、被告らは各自、本件損害金として、原告樽川に対し金八万三、四〇〇円及び内金七万三、四〇〇円に対する損害発生の後であることが明らかな昭和五二年一二月一日から、原告会社に対し金一〇二万九、〇三二円及び内金九二万九、〇三二円に対する右同日からそれぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務あることが明らかである。

よつて、原告らの被告らに対する本訴請求のうち、右認定の限度でこれを正当として認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用し、被告梅津の仮執行免脱宣言の申立は相当でないのでこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 武田聿弘)

(別紙) 売上明細

〈省略〉

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